お別れホスピタルから学ぶ「リアルな終末期」

目次

みなさんは医療を題材にした、漫画やドラマに触れたことがありますか。

主人公が課題を解決し、前進していくような展開はよくありますが、今回ご紹介するのは、そんな展開とは異なるリアルな終末期病棟を描いた「お別れホスピタル」です。

お別れホスピタル1巻 ©沖田×華/小学館

小学館より刊行されている沖田×華による漫画で、終末期病棟で働きはじめて2年目の主人公、辺見が目にする暗く、悲しく、回復傾向の無い暗晦な未来を待つ患者に寄りそう日々を舞台に話は進みます。

看護師経験がある作者だからこそ表現できる説得性のあるストーリーに、時々笑いも交えたエピソードも挟みながら、誰もが迎えるであろう「その時」について考えさせられます。

今回は特に印象深かったエピソードを取り上げ、終末期について考察していきます。

明るい笑顔の裏に隠されたこころ

カルテ6 本庄 昇さん(第6話)

本庄 昇さん(56歳)はスキルス性胃がんで入院していました。
元社長で自身の会社が倒産したと同時にがんが発覚、入院直後には離婚も経験しています。

普通の人なら、立て続けに重なった不幸に塞ぎ込んでもおかしくない状況ですが、担当看護師の辺見が彼のもとを訪れると、

 

若くて美人のナース、紹介してくんない!?」と笑顔でアピール。

 

「何言ってるんですかー」と辺見は苦笑いしながら聞きながします。
活発な性格で、がんとは思えないほど明るい性格の本庄さん。いつも女性にまつわる冗談を言っては、場を盛り上げてくれる存在でした。緩和ケアがうまくいけば1年は生きられると告げられていました。

しかしある日突然、窓から飛び降り自ら命を絶ってしまうのです。

変わり果てた姿を目にして
本庄さん… なんで…
急な展開に辺見は驚きを隠せません。

がん診断後は自殺率が上昇

がん診断から6か月以内は自殺の危険性が高くなる傾向があります。また、診断直後は一番のピークを迎えるため注意が必要です。

がん患者の自殺率は、一般人口に比べ1.55倍高く、終末期患者の10~20%に希死概念が見られるというデータもあります。事前対応として自殺対策の医療従事者教育、また患者には、他業種からの支援体制を充実させるなど、がん診断時からサポートできるような環境が重要になってきます。

ごめんね。と悔やむ日々

警察による実況見分に入り、辺見は本庄さんとの日々を振り返ります。

病棟の中で一番元気で活発な患者だったから、そこまで悩んでいることに気づかなかった…
辺見は、忙しいのを理由に本庄さんの話を聞き流すことが多かったと悔います。
ちゃんと話を聞いてあげられていればと、「ごめんね…ごめんね。」と肩を震わせ涙を流すシーンで話は完結となります。

お別れホスピタル1巻 134p ©沖田×華/小学館

一見、明るく振舞い元気そうに見える患者であっても、とても深く悩んでいる場合もあります。あの人は、大丈夫だからと安心せず日頃から注視することが大切です。

終末期病棟で最も若く最も長い入院患者

カルテ12 佐古ヒトミさん(第12話)

佐古ヒトミさん(35歳)は、25歳の時に遷延性意識障害(植物状態)に陥り、10年前に他病院から転院してきました。

母親の寛子(ひろこ)さんは2週間おきにヒトミさんのもとへお見舞いに訪れます。高額な治療費は、仕事を掛け持ちし全て彼女が出しています。大切な一人娘のために…

しかし、ヒトミさんが目覚める可能性は数%以下と診断を受けていました。さらに、この状況が10年以上続いていることから辺見の心の中では「娘さんの目は目覚めません」と分かっていても言えない…と苦悶する日々が続きました。

看護師の私たちに何ができるだろうか

そんな寛子さんのために、ヒトミさんのお誕生日会を開くことになりました。ちょうど誕生日が近かったこともあり、辺見が提案し実現したのです。

ヒトミさんの頭には髪飾り、そしてお祝いの花束も添えられてリボンであしらわれたベッド周りは華やかです。そこに寛子さんが訪れ、華麗に飾られたヒトミさんを見て歓喜の涙を流しました。

お別れホスピタル2巻 ©沖田×華/小学館

終末期ケアにおいて決まったルールはない

ケアとは、定義づけることもできなければ、ルールもありません。病状も違えば、よりそう家族も様々だからです。

一途に優しい言葉をかけるだけではなく、ただただ泣いている患者に静かに寄り添っただけでも患者にとっては満足なケアだったという声もあります。

今その人に必要な最適なケアを選び出し、ケアしてあげることで患者だけでなくまわりの家族のケアへもつなげることができます。

今回のお誕生日会を通して働きづめで苦しい毎日を送っていた寛子さんは、「今日ほど死ななくてよかったって思ったことはありません。」と涙をこぼします。ヒトミさんが生きているということが寛子さんの生きる原動力や幸せに繋がっているのだと辺見は実感しました。

まとめ

今回は「お別れホスピタル」より2つのエピソードを取り上げてみましたがいかがでしたでしょうか。ひとえに終末期といっても、人の数だけたくさんのドラマがあります。

ケアに正解が無いからこそ、看護師にとっても悩み、葛藤し、時に涙する場面もあるかと思います。しかし、ケアは一生の思い出に残る最初で最期の時間です。最善の形で「その時」が迎えられるよう、「お別れホスピタル」が最適なケアを見つける1ページになれば幸いです。

参考文献

お別れホスピタル1巻・2巻 ©沖田×華/小学館

国立がん研究センター編 がん医療における自殺対策の手引き(2019年度版)

終末期ケア専門士とは

終末期ケア専門士は、「臨床ケア」におけるスペシャリストです。

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