【事例検討】揺れる家族:家族間トラブルを乗り越えて

目次

患者さんのケアや看護につまずいた時、事例を知ることで学べるものがあります。

終末期において、本人の希望がはっきりと示されていない場合、家族はどうしたらよいか迷い気持ちは揺れ、不安定になります

事例を通して終末期にかかわる医療従事者の役割を考えてみましょう。

 

登場人物

Nさん

80代男性

糖尿病 脳梗塞 アルツハイマー型認知症 高血圧

75歳頃から認知機能が低下。78歳の時に脳梗塞を発症、右片麻痺・高次機能障害がある。
本人の今後の希望が示されないまま、意思疎通が困難となった
自宅療養を1年以上続けているが、度々、肺炎や尿路感染症のため入退院を繰り返している。

 

本人の希望が分からず、今後の介護生活に不安を抱いている。
夫婦仲は良く、ケアには積極的に参加している。
介護サービスを利用しながらの自宅療養を望んでいるが、体調不良のたびに不安感が強くなる。

 

長男

母が介護をするのだから、母が決めればいいと口出しはしない姿勢。

 

長男妻

Nさんの介護をたびたび手伝っている。はっきりした性格。病院療養を希望している。

 

家族の気持ちのすれ違い

Nさんが肺炎のために入院した際、看護師は今後についてNさん家族一人ひとりから話を聞きました。

妻からは「これからどんどん悪くなってきたら、施設のほうがいいのかしら…。」と話がありました。

しかし妻の表情は暗く、話を聴いた看護師は本当に施設療養を望んでいるのか疑問を持ちました

長男の妻からは「施設や病院の方が安心です!私もどこまで手伝えるか分からないし」と、Nさんの施設療養を希望する気持ちは変わらない様子でした。

看護師は長男の妻の話を聴き、その日は部屋を後にしました。

 

衝突する家族の思い

退院前のカンファレンスのことでした。

ケアマネジャーから「退院後は自宅でNさんの奥様がおもに介護をされる予定です。今回も前回と同じ訪問看護ステーション〇〇さんが入られます」と話がありました。

しかし、その話に対して、長男の妻より「ちょっと待ってください、私は施設の方が安心だから、そうして欲しいとお伝えしたはずです!看護師さんへもそう話しました!」との発言がありました。

妻は「そうなんですか?私は施設が安心と言ったけど、今回も家に帰るものとばかり…」と話されました。

長男の妻の気持ちは固く、その日は話し合いを進めることができませんでした。

 

看護師が話を聞いたことで、退院後にNさんが施設などへ移動することが決まったと長男の妻は考えていたようです。

家族それぞれが思いを話したことで、考えの違いが明確になり、さらに混乱を招く結果となってしまいました。

医療者の思い

カンファレンス以来、長男の妻は面会に来なくなりました。
また、Nさんの介護に対して消極的になり、Nさんとの妻との仲も上手くいっていないようでした。

 

地域連携室を交えた医療者間の話し合いでは、

Nさん本人の意思が置き去りになってしまっているのでは…本人の意思を知る手がかりがあれば」

「高齢の妻だけでは自宅療養を続けるのは難しい、家族の協力が得られれば…」

などの意見が挙がりました。

 

本人の思い

看護師がNさんの部屋を訪ねると、長男が面会に訪れていました

長男に現在の家庭の状況について尋ねると、

「母と妻はいままでは仲良くしていたのに、あれ以来ぎくしゃくしていて、あまり口をきいていません。父が元気だったら、なにしてんだーって、笑って言うでしょうね」と苦笑しました。

「Nさんはそんな風に、仲を取り持ってくれていたんですね」と述べると長男は、

「そうですね…そんな人でした。ムードメーカーで…そういえば、家でみんなでごはんを食べることが一番の幸せって言ってました…」と答えました。

それを聞いた看護師は、Nさん本人は自宅で療養することを希望しているのではと推測しました。

思いを一つに

長男の同意を得て、先日の話を妻と長男の妻へ伝えました。

すると、長男の妻から「本当は、お義母さんが心配…無理してでも介護を続けるような人だから…」と打ち明けられました。

義母への心配と自宅療養への不安が大きかったことが、拒否的な言動につながっていたことが分かりました。

 

今後の方針を自宅療養へと定め、看護師が妻や長男の妻に話を聞きながら、介護負担を軽減できるように介入を進めていくことで家族が再び協力することができるようになりました。

その後、自宅療養を続け、1年後家族に見守られながら自宅で永眠されました。

 

学びのポイント

・脳血管障害のような疾患では、長期にわたる介護の間に患者本人の意思が置き去りになっていることがある。家族の話から本人の意思を聞き出すことが大切。

・家族間で意見が合わないことはよくあり、看護師がその懸け橋になれるような関わりが必要。

 

今回は、家族の思いがすれ違ったところから、改めて患者本人の意思を推測し、自宅療養へつなげることができた事例を紹介しました。

 

脳血管障害は、突然発症するため本人の意思を確認することが難しく、家族にその決定が委ねられることが多くなります

そのため、家族は「本当にこれで良かったのか」と葛藤を抱えやすくなります。

また、急性期を脱した後の療養生活が数年に及ぶこともあり、家族の介護負担はさらに大きくなるため、家族のちからを引き出せるような関わりが求められます。

終末期ケア専門士の資格を取得することで、さまざまな視点を身につけ、さらに質の高いケアを目指しましょう。

 

終末期ケア専門士とは

終末期ケア専門士は、「臨床ケア」におけるスペシャリストです。

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