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患者さんのケアや看護につまずいた時、事例を知ることで学べるものがあります。
今回は、患者さんの思い込みから疼痛緩和の導入がうまく進まなかったときの関わりをみていきましょう。
登場人物
Yさん
40代男性、独居。
大腸がんステージⅣ、手術適応外のため緩和ケア病棟へ入院となる。
母親を早くに亡くし、1年前に父親を胃がんで亡くしている。
疼痛のため夜間不眠、日中の活動低下がみられる。
今までは体を動かすことが好きで、草野球チームに所属し、子供たちに野球を教えていた。休日はよくバッティングセンターに通っていた。
入院中のYさんの様子
看護師がケアのために訪室すると、「そんなことしたって治らないなら仕方がない」とケアを拒否される日が続き、看護師も対応に悩まされていました。
日に日に食事摂取量も減り、日中はベッド上で過ごされる時間が増え、夜間は疼痛のため眠りが浅い様子がみられました。
オピオイドの使用を提案すると「麻薬なんて使ったらおしまいだ、俺を殺す気か」と声を荒げ、疼痛コントロールに消極的な様子でした。
麻薬を使うことへの恐怖
ある日、病室へ行くと床頭台に寄せ書きが飾られていました。
Yさんに聞くと昼間の面会時に「草野球チームのみんなから貰った」と嬉しさと寂しさが入り混じった表情で話されました。
入院したことを聞いた子供たちからの激励のメッセージだったそうです。
Yさんの様子からは、野球や子供たちへの思いが伝わってくるようでした。
Yさんは最後に、「もう一度草野球の観戦に行きたいなあ、もうこんな体じゃ外出もできないよな・・・」と寂しそうにつぶやきました。
看護師が「痛みを和らげるお薬を使うことで、外出することもできますよ」と伝えると、
「でも麻薬は怖いんだよ・・・父親は麻薬を使ってから眠ってばかりだった、だから使いたくない・・・」と話されました。
Yさんの思いを叶えるためには
日に日に増す痛みにより、このままでは抑うつ状態となることもあることも懸念され、医療チーム内では疼痛緩和の早急な導入が検討されました。
チーム内では
「麻薬について正しく理解してもらい疼痛緩和が上手くできれば、穏やかに過ごせるのでは」
「子供たちの草野球をみたいと話していた、叶えることはできないか・・・」
などの意見が出ました。
医療用麻薬について正しく知る
がん患者の場合、診断時にすでに20~50%の患者が痛みを経験しており、終末期になると死の2週間前には75%の患者が痛みを経験していると言われています。
しかし、「麻薬は怖い薬・・・」「麻薬を使うなんて・・もう長くないのか・・・」など、まだまだ誤認している方は多くおられます。
Yさんの場合も父親を間近で看取ったことから、麻薬は怖いという強い思い込みがみられました。
そこで、医療チームから医療用麻薬についてYさんへ詳しく説明する時間を設けました。
医療用麻薬を使用することで寿命が短くなるようなことはない
痛みに対して適切に使用すれば依存することはない
痛みやその他の症状を確認しながら、医療用麻薬以外の薬を使用することもある
以上の内容を丁寧に、Yさんの気持ちを確認しながら説明しました。
説明の後、Yさんは「自分が思っていたのと違っていました・・・この痛みがなくなったら子供たちの試合も見れるのかな・・・」という言葉が聞かれました。
その後、Yさんの同意のもと医療用麻薬が導入され、痛みが緩和されたことで束の間の穏やかさを取り戻し、草野球を観戦するという願いもかなえることができました。
そして、その数週間後、静かに永眠されました。
学びのポイント
・いつでも話を聞く姿勢を示し、本人の思いを傾聴することが大切。医療や治療に対する不信感などがあっても本人の思いを否定しない
・疼痛コントロールの重要性への理解を促すには、疼痛緩和への誤解や不安をなくすことが大事、その際には正しい知識を持てるように支援する
今回は、医療用麻薬に対する間違った思い込みから、疼痛緩和の導入が遅れることになった事例を紹介しました。
今回のケースでは、身近な方の死からの医療不信が、医療的ケアの拒否に繋がっていたように推測されます。
痛みを取って楽にしてあげたいと思う看護師の気持ちとは裏腹に、はじめはなかなか緩和ケアが進みませんでした。しかし、患者の思いに寄り添い、正しい知識を提供することで、少しずつYさんの気持ちが変化し、医療用麻薬の導入を行うことになりました。
終末期では、患者・その家族が疼痛緩和の正しい知識を持てるように支援することが求められます。患者の状態を正しくアセスメントし、必要な支援を必要なタイミングで行うことでQOLの向上に繋がります。
終末期ケア専門士の資格を取得することで、さまざまな視点を身につけ、さらに質の高いケアを目指しましょう。
終末期ケア専門士とは
終末期ケア専門士は、「臨床ケア」におけるスペシャリストです。
患者・利用者様の一番近くで「支える人」として、エビデンスに基づいたケアの実践をおこなえることを目指します。
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