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病院や施設で、ご家族との価値観の違いを感じる経験をしたことがある方は多いのではないでしょうか。
今回は、事例を通して終末期ケアにおける医療従事者の役割を考えてみましょう。
登場人物
Aさん
女性60歳。乳がんで肺転移があり、予後1~2か月。
体動時の呼吸困難があり、1日をベッド上で過ごしている。
排便時には看護師が二人で介助し、ポータブルトイレへ移乗している。
呼吸困難に対してはオピオイドを定期内服。
入浴・食事・ポータブルトイレ移乗前にレスキューを使用し症状緩和を行っていた。
夫
63歳。キーパーソンとなっているが物静かな印象の方で、自ら医療従事者への要望などを言うことはない。
長女
35歳。医療従事者にもはっきりものを言う性格で、実質的なキーパーソン。
価値観の違い 〜医療者の思いと長女の思い〜
Aさんのケアについて、医療従事者間のカンファレンスでは以下の意見が挙がりました。
- 体動を減らして呼吸困難となる要因を除去し、排便はなるべくポータブルトイレで行う
- 家族団らんの時間を穏やかに過ごせるようにする
医療従事者間で方針が決まった矢先に、長女からリハビリ(自費)の希望があり、平日のみ開始となりました。
リハビリは想像以上にハードであり、本人も苦しそうです。しかし、長女は「大丈夫よね!お母さん」とAさんに励ましの言葉をかけます。
看護師はリハビリ後のAさんが汗をかいて苦しそうにしているのを見て、このまま続けていいのか疑問に感じ始めました。
長女は、リハビリが終わるとすぐに帰るため、Aさんが落ち着くまでにどの程度時間を要するのか知りません。
看護師は、長女の行動が理解できなくなっていきました。
さらに長女から、休日にもリハビリ希望と援助をしてほしいという申し出がありました。
看護師から、休日の援助は状態悪化時の対応の点やスタッフの人数の点でも難しいことを伝えると・・・
「看護師さんたちは私たちの邪魔をしたいんですか!!」
「母に“リハビリ苦しくない?”って確認してること、知ってるんですよ!!」
と興奮気味に話されました。
苦しそうな様子を間近で見ている看護師にとっては、長女がなぜAさんに苦しいリハビリをさせたいのかわからず、困惑し逃げ出したい気持ちになりました。
しかし、ここで逃げ出しては、もやもやした気持ちのままAさんのケアを続けることになってしまいます。
長女はなぜこんなにも感情を露わにしたのでしょうか。
長女の怒りの根源は、どこにあるのでしょうか。
経緯を言葉で伝えあうこと
今回、看護師はまず、長女に不快な思いをさせてしまったことを謝罪し、今感じている気持ちを打ち明けました。
「Aさんが苦しそうな姿をみるのがつらいこと、穏やかな家族の時間を作りたいと思っていること」を伝え、長女がリハビリにこだわる理由を聞き出すことにしました。
長女は、母親が何事にも目標を持って取り組む人であったこと、二人で相談して目標を作ることにしたことなどを話してくれました。
看護師は、話し終わったときに話してくれたことへの感謝とそこまで思い詰めてがんばってきたことにねぎらいの言葉をかけました。
すると、長女の態度はほぐれ、看護師への感謝の言葉を述べました。
それからは、実現可能なリハビリのケア計画を立て実行することができました。
その1か月後、Aさんは家族が見守る中、永眠されました。
病院や施設などでは、患者さんに焦点があたり家族とのかかわりが十分にもてないことも少なくありません。
患者さんを支える家族や周囲の人たちもケアの対象であることを忘れてはいけません。
学びのポイント
・逃げ出したくなるような場面で感じる「もやもやする気持ち」をそのままにせず、家族や本人に確認して、医療者と思いをすり合わせることが大切。
・怒りの前には、寂しさ・辛さ・不安などの思いがあることを知り、その見えない想いにも耳を傾ける。
・怒りをあらわにされたとき、自分を否定されたような気持ちになることが多いが、今起こっている事実への戸惑いであることを理解する。それが、その場に居合わせた看護師の心を守るコーピングにもつながる。
目の前で起こったことだけに目を向けると、医療従事者自身も辛さや不安・恐れなどの感情にとらわれてしまいます。
患者さんや家族はどのような気持ちでそのような言動に至ったのか、その過程に目を向けることの大切さを感じた事例でした。
終末期ケアでは、単に症状対応やケアをするだけでなく、一人の人間として自分自身と向き合うことや人を深く理解する力が求められます。
終末期ケア専門士の資格を取得することで、いま感じているもやもやを解消し、さらに質の高いケアを目指しましょう。
終末期ケア専門士とは
終末期ケア専門士は、「臨床ケア」におけるスペシャリストです。
患者・利用者様の一番近くで「支える人」として、エビデンスに基づいたケアの実践をおこなえることを目指します。
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